酒蔵ホテル KIREI

寛文五年(1665)創業の岡崎酒造は、北国街道・柳町で三百五十余年にわたり酒を醸し続けてきた。看板銘柄「信州亀齢(しんしゅうきれい)」の芳醇でキレのある味わいが国内外の愛好家を魅了し、“柳町の香り”を象徴する存在となっている。

この歴史ある蔵とタッグを組むのが、酒蔵滞在体験を専門とする KURABITO STAY の田澤麻里香氏。2020年に世界初の「酒造りと酒造り職人の生活を体験できる宿」を開業して以来、麹づくりや仕込み作業、酒米圃場めぐりなどを通じて“酒を醸す土地に深く浸る旅”を提案し、これまでに800名超・31か国のゲストを迎えてきた。彼らのミッションは「百年後も誇れる故郷を守り伝える」こと。〈KIREI〉はその理念を上田・柳町で体現する二号店となる。

私たちコラレアルチザンジャパンが建築デザインとして目指したのは、「町に包まれ、空間に包まれ、日本酒に包まれる」五感没入型の滞在である。ファサードには柳町の町家に連なる縦格子を現代的に読み替えた木製方立を配し、昼は石畳に細やかな影を落とし、夜は行灯のように柔らかな灯をにじませ、同時に耐震補強の役割も担わせた。

内部では町名の由来である柳を主役に据える。樹皮際の力強さを残した一枚板のダイニングテーブルや分厚いニッチ棚、ベッドサイドの天板が柳のしなやかな生命力をそのまま宿し、滞在者を包み込む。視線を上げれば築百年超の丸太梁が現しとなり、割れや節が重ねられた時の層を静かに語りかけるよう。

二階リビングには、上田周辺の陶芸・硝子作家によるぐい呑みを内照キャビネットに浮かび上がらせている。宿泊者は好みの器を選び、蔵元の正面という“特等席”で信州亀齢を傾けられる。ベッドサイドを照らすのは、実際に蔵で用いられた酒瓶を溶融再生したリメルトガラスの照明。琥珀の微光が夜更けを包み、日本酒が熟成する杉桶の内側を思わせる静寂を演出する。

かつて天井高が低く浴室設置が困難だった離れは、縦方向に抜ける二層吹抜けの“洞窟型バスルーム”へと転生した。トップライトから降り注ぐ光が湯気を透かし、発酵蔵の甕(かめ)の中に身を沈めるような没入体験をもたらしている。また、内部空間の仕上げは面を取る(丸みをつくる)ことによって、日本酒の丸みや酔いを表現した。

夜、縦格子の隙間からこぼれる灯りが石畳を照らし、発酵の香りとともに歩く人を自然とホテルへ導くことを狙う。柳町の石畳に足音が吸い込まれ、杉桶の内側で静かに酒が呼吸するような〈酒蔵ホテル KIREI〉で過ごす一夜は、上田でしか味わえない芳醇な“包醇”の深みへ旅人をそっと誘うものとなることを期待している。


建築デザイン
山川智嗣、山川さつき(CORARE ARTISANS JAPAN)

プロジェクトマネジメント
田澤麻里香(KURABITO STAY)

プロデュース&アートディレクション
柳沢明夫(ONIGIRI)

建築施工
石井輝樹(石井工務店)

アート制作(絵画)
駒場拓也

アート制作(木彫)
齋藤智史

暖簾製作
三田桃子(Mori Iro)

リメルトガラスシェード制作
寺西将樹(ガラス工房橙)

写真
大木賢(nando)

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